- SLOW SURFING LIFE IN KOCHI -
森が海を作る。それを知るサーファーたち
朝日とともに目覚め、今日の天気を確認する。風を読み、雲の流れと相談しながらその日ベストな業務を行う。 さながらサーファーのような動きの林業は、私たちの感性と大きくマッチする。ましてや森は大切な自然の一部。 その一部に仕事として関われることは喜びだ。森から川へ、そして海へ。すべてがつながっていることをサーファーは知っているのだから。
木を植え、森林を作り、守りながら育て、その木材を伐採する林業には、さまざまな作業がある。 森林を健全に保つため、"地ごしらえ"や"下刈り"、"間伐"など、細かな手入れを繰り返す。収穫までは少なくとも40年。 スケールの大きな仕事には、やりがいとロマンがある。 それは、年に数回出会えるかわからないパーフェクトウェーブを待ちわびるサーファーの気持ちと似たものかもしれない。 しかも林業は、望むなら毎日でもサーフィンができる業務形態。その魅力に気づき、この仕事を選ぶサーファーが増えてきている。
「海に同じ波がひとつもないように、森にも同じ木はない。サーフィンと林業って、とても似てると思うんです」と、兵庫県から移住してきた山本純一さん。 彼は地元で10年林業に関わった後、夢の住処を求めて高知県・四万十市に移住した。自宅は好きなサーフポイントの目の前。 緑生い茂る山と、雄大な川、時にはウミガメが砂浜を歩く美しい海。このシンプルな暮らしが心地いいと言う。 同じく、波と木に似たフィーリングを感じて林業を選んだ田所さんは生まれも育ちも四万十市。 中学1年生でサーフィンを始め、今もこの場所に魅了されている。時間に余裕のある仕事だから、波がいい日は海へ。 身近な海でルアーフィッシングも楽しんでいる。
「間伐が進むと森の景色が変わるんです、施工前は鬱蒼としていた場所に太陽の光が溢れ出す。そんな瞬間を見れるのも好きです」
地球の鼓動を感じさせてくれる太陽や雲、風、雨、柔らかな夕日。前日に雨が降っていれば土がぬかるんでいる時もある。
さまざまな状況に合わせて作業を進める林業は、自然のリズムに沿っている。SDGs達成のための重要な責務でもあるのだ。
「地域のためや環境のため、林業にはお金では計れない価値があると思います。社会貢献度が高いことをもっと多くの人に知ってほしい」 と4人が関わる中村市森林組合の参事・立石さんが教えてくれた。彼は高校卒業後に大阪で就職。25歳で地元の高知県へUターンした。 大都会で忙しく働き、自然とは遠のいた暮らし。その後に戻った故郷は想像以上に魅力的な場所だった。
「いいサーフポイントがたくさんあるし、釣りもそこら中でできる。今は家庭菜園もやっています。家族と一緒に過ごせる時間が増えたのも幸せの理由ですね」
双子の姉妹を子に持つ立石さんは、彼と同じくサーフィンにハマった子どもたちと毎週海へ向かう。
ゲームで遊ぶことが主流となりつつある現代社会、子どもたちは驚くほどアクティブだ。家族と一緒に海で過ごす妻の亜美さんは言う。
「子どもたちは本当に健康。サーフィンを始めて身体が強くなっているのかな。個々は遊び場が多いし、子育てしやすい。近所の人も周りの子どもを気遣ってくれるから、安心感があります」
あえて町から少し離れた場所に自宅を構える立石家は、常に開放的な雰囲気。庭でいつでもバーベキュー、それが当たり前の暮らしだ
住宅が密集していないから、近所とも心地よい距離感がある。大阪時代から始めたバンド活動も地元で復活。部屋でギターを掻き鳴らしても誰にも迷惑をかけない。
だけど海も職場も近い。
「子どもたちには本気で遊べ、といつも伝えています。ここには豊かな自然があるから」


森の香り、水の色。五感で感じる自然の息吹
そんな立石さんの人間性に惹かれて中村市森林組合に就職したのは山本誠さん。彼の実家は3代続く建具店で、木には幼い頃から親しんできた。
家業を継ぐため、都心で修業。インテリア雑誌に取り上げられるほどの実力を得て、地元の高知へUターン。今はふるさと納税返礼品も製作している。
「この場所が好きで戻ってきました。でもせっかく仕事をするなら地元を盛り上げることをしたい。だったら森林率ナンバーワンの林業じゃないかと」
県土の84%が森林の高知県は、複雑な地形と黒潮による温暖多雨な気候が影響する。空港に降り立つとふわっと香る南国感、同じ四国でも瀬戸内海側とは違うスケール感。
しかし日本の本州のそれとは違い、穏やかな空気が流れ続ける。スギとヒノキ、ふたつが主流の高知で、特にヒノキが育つ四万十市の魅力を今に伝える。
「環境保全に興味があって、都心にいる時からそんな会合に参加していました。おばあちゃんから聞いていた家業の話とかも思い出して。いや、高知ってすごい場所なんじゃないかと」
雨が降ると林業の仕事はストップする。そんな環境を活かしながら、自宅に残された工具でフィンボックスやカッティングボードを作る。
自分が伐採した木ではないかもしれないけど、廃材になる何かも形にしたいと願っている。木を育て、木で表現する。
当たり前のようでいて、便利な世の中ではもう希少だ。今日も変わらず動く先代機材を目にして言う。
「苗木を植えて50年後のイメージって実際分からないですよね。でもそのビジョンを持って行動している先輩がいて、林業ってすごいなと思います。
人目には触れづらいけど、その先は誰かの家とか家具とか、生活に関わってくる」
誠さんはふたりの子どもたちと共通の趣味を通して関係を育んできた。一緒にバス釣りへ、時には海へ。有名な川もあるし、その辺にある池も調子がいい。
遊び場が全部自然。魅力的な環境が高知には揃っている。
急斜面で作業することのある林業は、時に命懸けだ。だけどそれは海にパドルアウトした時のサーファーの感性にも似ている。
「クルマで山には入るけど、細かい作業は自力です。どういうルート取りで行こうかと考えます。伐採する時は風を読むんです」と純一さん。
彼は高知県でも数少ない特殊伐採を担当する。むずかしい伐採を成功させるため、彼はツリークライミングをする。木から見た景色を確かめるのだ。
「日常だとなかなか見れる景色じゃないですよね」
柔らかなピンクと白のコントラスト。ヒノキを前に背筋が伸びるような気持ちになる。その香りは、この地が本来持つエネルギーだ。森が美しければ海もまたいい。
だから高知の波は最高なんだろう。

